小泉八雲が日本の古典、民話説話から想を得て創作した短編小説集『怪談』中の一篇。阿弥陀寺に住む盲目の琵琶法師・芳一のもとに、ある夜、見知らぬ武士が訪れ、平家物語の「壇ノ浦の段」の弾き語りを乞う。
武士に連れられて赴く芳一だが、辿り着いた先は安徳天皇の墓前。武士は平家の怨霊であった。以来、夜な夜な出かける芳一を不審に思った阿弥陀寺和尚は、このままでは芳一が怨霊に取り殺されてしまうと案じ、芳一の全身に経文を写し、武士の怨霊が呼びに来ても答えぬよういい含める。経文の書かれた芳一の体は怨霊の目には見えない。しかし経文を書き漏らした耳だけが虚空に浮いていたため、怨霊はその耳をもぎとり去る。
命拾いをした芳一は、その後、琵琶の名手・耳なし芳一として評判となった。
本名・ハーン・ラフカディオ(Hearn Lafcadio)/日本研究家、小説家、随筆家/米国にて出生
1850年6月27日生まれ1904年9月26日没
アメリカで新聞記者を勤め「異文学遺聞」「中国怪談集」「西印度諸島の二年間」などを刊行。明治23年来日、松江中学、熊本五高の英語教師、「神戸クロニクル」紙記者を経て、29年日本に帰化して小泉八雲と名乗る。
日本各地を旅行し「知られざる日本の面影」「心」など日本を紹介する随筆集のほか、日本の伝説に取材した小説集「怪談」を発表。没後東大での講義集「人生と文学」「英文学史」が刊行された。
─── 日外アソシエーツ刊『新訂作家・小説家人名事典』より ───