初出・昭和20年10月
「ムカシムカシノオ話ヨ」。
瘤取りじいさん、浦島太郎、カチカチ山。
太宰があの名作を徹底解剖、大人を唸らす残酷民話集。困難な戦争期にあって、深く芸術世界に沈潜することで時代への抵抗の姿勢を堅持し、日本文学の伝統を支えぬいた太宰中期の作品から、古典や民話に取材したものを収めた作品。
“カチカチ山”など誰もが知っている昔話のユーモラスな口調を生かしながら、人間宿命の深淵をかいま見させた。
本名・津島修治/小説家/青森県出身/東京帝大中退
明治42年6月19日生まれ昭和23年6月13日没
大地主の生まれ。青森中時代から作家を志望し、弘前高を経て東大入学後、井伏鱒二に師事する。東大在学中は共産主義運動に関係したが脱退、自殺未遂事件を起こした。
昭和8年第一作「思ひ出」に続いて「魚服記」を発表、その後「猿面冠者」「ロマネスク」「道化の花」などを発表。昭和10年、佐藤春夫らの日本浪曼派に参加。同年都新聞の入社試験に落ちて自殺を図る。また「逆行」が第一回の芥川賞次席になり、作家としての地位を固める。昭和11年、作品集「晩年」を刊行するが、同年芥川賞の選に洩れ再び自殺未遂。昭和14年、結婚。以後「富嶽百景」「走れメロス」「新ハムレット」「津軽」「お伽草紙」などを発表し、15年には「女生徒」で透谷文学賞を受賞。戦後22年に代表作となった長編小説「斜陽」や「人間失格」「ヴィヨンの妻」などを相次いで発表したが、23年6月遺稿「グッド・バイ」を残して山崎富栄と共に玉川上水で入水自殺を遂げた。無頼作家として人気があり、命日の桜桃忌には多くのファンが集まる。
─── 日外アソシエーツ刊『新訂作家・小説家人名事典』より ───